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あしたの君へ。
 来る2月9日を明日に控え、サタンは泡立て器をぼんやり片手に構えたまま、一人思い悩んでいた。
 明日は彼の最愛の妻であり、生涯のパートナーである闇神 巴の幾度目か知れない誕生日だ。お祭好きでそういった記念日を気にかけるサタンは毎年飽きずにプレゼントやパーティーなど趣向を凝らしてきたもので、今年もその例外に漏れずこうして知り合いの刀神宅にて卵と格闘している。
 今年の誕生日には巴がこよなく愛するいちごのショートケーキを1ホール焼こうと思い立ち、彼に頼み込んだはいいもののここに至ってサタンは重大な問題に思いあたってしまった。
「サタン? 卵固まっちゃいますよ。ほら混ぜた混ぜた」
 言いながらも、その横で講師草 周は軽やかな手つきで泡立て器を操っている。湯せんにかけた卵の黄身と白身を一緒くたに泡立てクリーム状にするという、かなり難しく力のいる技法を用いているはずだが、対卵用武器を操る細い手には少しの力みも疲れも見られない。
「あ。ごめん」
 謝ってサタンも作業を再開するが、卵を睨む眉間にわずかに皺が寄っている。
 解りやすいことだと思いながら、周はそっと苦笑してサタンに声をなげた。
「どうかしたんですか?」
「……んー。周さ。いつもケーキひとりで食ってる?」
「まさか」
 今彼らが焼いているケーキはひとつが直径25cmという一般的には4~6人で分けるのにちょうどいいサイズだ。一人で食べようと思ったら相当の苦労を強いられることは目に見えている。
「ケーキなんてほとんど人に頼まれなきゃ焼きませんからね。お客さん用に焼く時は、自分と来るひとの数に1人か2人分足すぐらいのサイズで焼きますよ」
 一人ではいくらなんでも無茶がある。考えてみておかしくなったのか周はふふ、と笑いをかみころし。それでも余ってしまった時は近所や知り合いに配ってますよ、と付け足した。
「だよなぁ……どうしよう」
 誕生日ケーキとなるとそのぐらいの大きさがなければ寂しい気がして、漠然とそのサイズを指定していたサタンだが、この段になってそんなことを言い始めるあたりに彼の無計画性が現れている。真剣な表情で卵を睨み下ろしながら唸る様は、混ぜ返している手元の泡立て器やエプロンと全く別次元の雰囲気をかもし出している。たちまち厨房は異空間と化した。
 いくらなんでもこれを二人で食べきるのは無謀な気がする。明日の昼に出したと仮定して夜のデザートにもケーキを出し、なおかつ明後日のブランチにもできそうな量だ。しかも横では周が「じゃあ俺からもお祝いに」とワンサイズ小さいケーキの分量で見本を示してくれている。
 サタンにしてみれば、美味しいものならばおなじ物でも一週間ぐらい続かなければ文句はないし、胃もかなり丈夫にできているからもたれる心配もない。
 しかし巴にそれはどうかと考えると話は別だ。
 自分の手作りとなればきっと巴は喜んで食べてくれるだろう。ケーキを見た瞬間にはこころもち表情を輝かせるに違いない。
 が、巴は残念ながらサタンよりは冷静な人柄だ。暫く時間を置けば二人きりの状況と目の前のケーキが意味するところに気付くだろう。
「……巴、困るだろうなぁ」
 うーんうーん。唸りながらも丁寧に卵を泡立てる手元は止まらない。周は呆れと微笑ましさを混ぜ合わせたような内心でちらりと隣の部屋に目をやった。
 人見知りの彼女がこの雰囲気に疲れていなければいいのだけれど。
「じゃあ、2つずつ焼きますか? ケーキ。ハーフサイズならどうにか食べれると思うし、残りは誰かにあげてもいいんじゃないですかね」
 俺のも二つにしますから、そうしたら両方食べきれるでしょう? と。そういう提案。誰しも普通に思い当たりそうなその意見に、サタンはたちまち相好を崩して同意した。
 サタンの義兄である研究者か、あるいは父親である呪神ならば「単純バカ」と罵ったところだろうが。穏やかな講師は楽しそうに微笑み、「かわいらしいことだ」と暖かい視線をそそぐに留めた。
 180cmを優に超えた、自分よりもかなり猛々しい体つきの青年をほのぼのとそう称するあたりこの男も流石、ただものではない。
「周。こんなんでいい? 次は?」
 満面の笑みでわくわくと先を促すサタンの頭には、もはや愛しいひとの笑顔しか浮かんでいないのだろう。
 もう少し泡立てるようにと指示を出してから、周はそっと心の内でケーキの受取人に願いを込めた。
 愛はたっぷり詰まっているようだから、どうか彼のケーキが少々重たくなっていても巴さんが許してくれますように。
 湯せんの温度を少しぬるめようかと考えながら、彼は熱意に燃えるサタンのフォローへまわるべく、作業の手を早めたのだった。
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【2006/02/08 15:05】 | 短編、他 | トラックバック(0) | コメント(1)
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コメント
ばかなこでごめんなさい。
【2006/02/08 15:06】 URL | 狩野 #-[ 編集]
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  • Author:狩野宿
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    そんな感じの修行中字書きです。

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