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-プロローグ-     
流血の描写を含みます。そこまで生々しくないと思いますが残酷なものが過度に苦手な方はご注意ください。

 ふわり。白い雪の欠片が、ゆっくりと目の前を横切っていった。
 血溜まりの中へ座り込んだまま、銀髪の少年は呆けたようにそれを見送る。
 きれいだな、と思った。目の前の惨状によるものか、それともそれ以外の要因があるのか、断片的な言葉しか思い浮かばない。
 手の中の大鎌を握りなおすと、固まりかけた血液がぬるりと不快な感触を返してきた。築き上げられた屍の山を前に、ひたりと首筋へ刃を当てる。
 その姿勢のまま、この手を引けば楽になるだろうな。と漠然と思う。その手を止めるのは、やはり彼を辛い現実へと引き戻した兄の面影だった。
 少年の短い人生は、唯一の肉親である兄をいかに守るかだけにかかっていた。
 兄を守るためだけに人を殺め。
 兄を守るためだけに何度も死にかけ。
 兄を守るためだけに体を汚し。
 ただそのためだけに生きて、ただそのためだけに心を殺した。
 兄が死んだと聞かされた時が、少年にとってこの世の終りだったのだ。しかし、同時にとても安らかだった。
 もう守らなくていい。もう意地をはらなくていい。もう自分を保たなくていい。
 昏い安らぎを得た彼は、そのまま完全な人形になった。
 なった、はずだった。

 死んだはずの兄が遠目に現れ、彼の名を叫んだ途端に、彼の中で再び何かがはじけた。
 それまでの逡巡も心情もすべてが掻き消えて、彼は動いていた。
 湧き上がったのは、怒りと喜び。自分を縛っていたしがらみと共に君臨者を切り伏せ、邪魔するものを片端から凪ぎはらって進んだ。
 誰が計ったのか知らないが、立ちはだかるものがなくなったころには兄が乗る馬車は見えない場所まで走り去っており。
 心労と栄養不足からやせ細った体にそれを追う余力は残っていなくて、少年は他人の血でできた血溜まりにばしゃりと膝を落とした。

 そして、冒頭に至る。
 泣き出しそうな顔をして、まだ幼い少年はやわらかな雪を見つめる。
 彼のまわりだけ赤く染まった大地を、雪は静かに染め上げていった。
「……行かなきゃ」
 ぽつりと、か細い声が枯れた喉から漏れる。
 吐き出された息は、冷えた空気に白く凍って空へと溶けた。
 守りたいと、思ったのは自分なのだ。
 唯一自分に向けられる好意と、屈託のない笑顔を。
 それだけは守りたいと、思ったのは彼自身なのだ。
「むかえに行かなきゃ」
 そろりと上がった足が、頼りなく大地を踏みしめる。

 ざく。ざく。ざく。
 降り積もる雪に。白く染まってゆく景色に、訳もわからず涙が零れた。

 数年後、少年は大陸を揺るがす大事件に関わることになる。そして彼が立ち止まった時、迷った時、決断した時、惑った時。
 彼の脳裏に浮かぶのは、白く染められてゆくその時の景色だった。
 そう。彼の生涯を彩るのは、すべてを覆い、包み込むその色。



-   ぎんいろのゆき   -
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【2005/09/21 13:36】 | ぎんいろのゆき | トラックバック(0) | コメント(0)
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  • Author:狩野宿
  • 虚言・妄想・戯言・被害妄想が並じゃなく多いです。
    焦ったり面倒がったりまったりしたりしながら語彙と表現力の無さを嘆いています。
    そんな感じの修行中字書きです。

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