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一、雨と路地裏
 変態だ。視線の先で真っ直ぐ自分を見つめ返している男を跳ね付けることもできず、真優の頭の中では最大音量の警鐘(アラート)が鳴り響いていた。
 男は、明らかに日本人ではなかった。どきりとするほど整った面立ちは掘り込みが深く、短く切られた髪は天然の金色。
 何よりも目を引いたのは、男の瞳だった。
 この暗がりにもはっきりとわかる冴えた碧の瞳は、水溜りが弾いた頼りない光を返してまるで宝玉のように煌いている。
 男の言葉に理解が追いつくまでの数秒間は、ついその光に見入ってしまったほどだ。
 メシア。メシアというのはあの救世主を示すメシアのことだろうか。その言葉の意味を理解した瞬間、無意識に男の手を振り払う。
 男の姿は尋常ではなかった。重々しい刺繍が縫い取られたマントに、絹製らしい服の下では彼が動くたびしゃらしゃらと鎖帷子が鳴いている。
 まずい。やばい。今日はなんてついてない日なんだろうか。思わず天を仰ぎたくなったがとにかく今はこの頭がおかしい外人から一刻も早く逃れるのが先決だ。
 じりじりとガレージの壁伝いに移動し、相手が動かないのを見て取ると雨の中へと身を躍らせた。
「あ、おい」
 日本人くさい呼び止めを振り切るようにして、全力疾駆。
「おい、待てって」
「!?」
 前からの声に驚き、慌てて立ち止まると、目の前にはたった今置き去ってきたはずの相手が当然のように立ちふさがっていた。
 背後に目を走らせるも、当然そこに男の姿はない。何せ目の前に移動しているのだ。当たり前と言えば当たり前の話だが、にわかには信じられない。
 今、どうやって回りこんだの?
 彼女が今まで雨宿りをしていたガレージから、面通りへ抜ける通路はいま走ってきた一本道のみ。細い脇道も見当たらない。
 となればこの男が彼女より前に現れるには、目にも留まらぬすばやさで彼女の横をすり抜けるか、頭上を飛び越えてくるしかない。どちらにしろ、そんなことをしているのなんて見なかった。物理的に不可能だ。
「あー。わかった、ここじゃあまりワタリは一般的じゃないんだな?
 俺も初めて来る世界だ。見目だけでも合わせるから、ちょっと待ってろ」
 説明はその後だ。言うなり男は彼女の手元に傘を押し付け、反射的にそれを受けとった彼女の脇をするりと抜けて無人のガレージに戻っていく。
 逃げなければ、と思うのに。恐怖と困惑が彼女の足を止めていた。一体どうやって、今の移動を行ったのだろう。そして「ワタリ」というのは一体なんのことだろう。
 ただ一つ、はっきりと。逃げても追いつかれる。そんな気がした。いや、確信があった。
 またさっきのように回りこまれるならば、この男から逃げ出すことは出来ない。
 男の動きは、あまりといえばあまりに、一切の無駄がない動作だった。
 無雑作に動いているように見えるのに、所作の一つ一つが流れるようにつながっていて、意外なぐらいに美しい。
 こんな場合ではあったが。美しい、という単語を同年代の男に向けて当てはめるのは、未だ無い体験だった。
 サァ、とガレージの中が薄青く光ったように見えた。目を凝らそうとするとすぐにその光は立ち消えてしまい、ガレージから一人の男が出てくる。
 先ほどの、あの男だ。ただし、その出で立ちだけが変わっていた。
「これでどうだ? ちょっとは落ち着いて話聞けるか」
 簡易な緑のチェックが入ったウエスタンシャツと、ごく一般的なGパン。
 見慣れた服装に多少安心はしたものの、訳がわからないのは先ほどまでと少しも変わらない。
彼女が行動を決めかねていると、男がガレージへと彼女を手招いた。
「来いよ。説明する」
 逃げられない以上、行くべきだ。そう頭ではわかっていても、なかなか行動に移せるものではない。
 どうしよう。行っちゃダメだ。あの男が何者かどころか、何をされるかもわからないのに。
 行けるはずがない。
「おい」
 びくりと身を縮めた彼女に対し、男は肩を竦めておどけた風に笑った。
「雨に濡れるの、好きか?
 違うならこっち来るなり、傘差して帰るなりしろよ」
 俺を怖がって過ごすぐらいなら、こっち来てはっきりさせとくのを薦めるがね。
 そう付け加えて、彼はガレージの奥へと歩いて行った。
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【2006/06/06 19:57】 | タイトル未定 | トラックバック(0) | コメント(0)
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    そんな感じの修行中字書きです。

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